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陣営の強気の選択が正解に/ジャパンC

  • 2015年11月30日(月) 18時01分


むしろ2400mの方が合っていた

 坂を上がって一転二転、馬群を切り抜けた4歳牝馬ショウナンパンドラ(父ディープインパクト)がゴール寸前、鮮やかな逆転勝ちを決めた。

 勝ったショウナンパンドラから、逃げて坂上まで粘った15着カレンミロティック(父ハーツクライ)まで、その差はわずか「0秒6」。多くの馬にチャンスがあると思われた混戦は、期待通りの大接戦だった。

 行く馬は少ない。どの馬が先導することになってもスローに近い流れで展開するかと思えたが、もとより混戦、スローがささやかれれば飛び出す伏兵が登場して「流れは逆になる」のはパターン通りだった。外枠16番からカレンミロティック(16番人気)が果敢にハナを主張し、これに続いたのが同じ大外のアドマイヤデウス(10番人気)。

 良馬場ながらかなり柔らかい芝コンディションも影響し、勝ち時計は「2分24秒7」にとどまった。カレンミロティックの刻んだラップをそのまま使った前後半1200mのレースバランスは「1分11秒6-1分13秒1」=2分24秒7となるが、2400mを3等分すると「47秒3-秒49秒6-47秒8」。向正の中間から、3-4コーナーにかけたレース中盤で12秒台のラップが連続し、この部分の1000mは「62秒1」となる。ハイペースというより、レース全体は途中で息の入った「平均ペース」だった。

 勝ったショウナンパンドラは、天皇賞・秋とは異なり、中団の外を追走。もともと追い込み一手ではないが、この位置取りが大正解(2着したラストインパクトは同じ中団後ろのインにいた)。中間、素晴らしい動きで追い切り、絶好調に近いと思えた天皇賞・秋よりさらに身体がふっくら光ってみえたから、エリザベス女王杯ではなくジャパンCを選択した陣営の強気の展望も正解だった。初距離の2400mに対する不安はなくもなかったが、母キューティゴールド(フレンチデピュティ)は、種牡馬ステイゴールドの半妹であり、男馬相手のオールカマー2200mも、宝塚記念2200mも楽にこなしている。一番苦しいゴール寸前でぐいっと伸びたあたり、むしろ2400mの方が合っていたくらいである。

 池添謙一騎手も道中の位置取りからして完ぺき。前方に最大の強敵ラブリーデイを見据えながら、スパートしたラブリーデイをピタッとマークするようにそっくり同じ場所を通って追撃を開始すると、最後の100mは、まるでラブリーデイの脚が鈍るのを分かっていたような逆転だった。

 そのラブリーデイ(父キングカメハメハ)は、内からR.ムーア騎手のラストインパクト(父ディープインパクト)の強襲を受け、直後から並びかけてきたショウナンパンドラに屈したが、「スパートが一歩早かったか…」とするのは、あくまでゴール寸前で逆転されたからの結果論だろう。あと一呼吸遅らせても、ショウナンパンドラ、ラストインパクトが待つわけではないから、逆にもっと早く並ばれたかもしれない。

 超スローの京都大賞典2400mはクリアしたが、ここまで2500m以上は【0-0-0-5】であり、厳しい中身の東京2400mになってスタミナ面の死角が出てしまった。2400m級になると、京都大賞典が示すように速い脚の使いどころが難しいから、この距離はギリギリだったのである。状態はベストターンドアウト賞を獲得したくらいで素晴らしく良かった。余すところなく力は出し切っている。コースが変わる中山の有馬記念2500mなら、距離不安は今回より小さいはずである。

 前回あたりからすごいデキになっていたラストインパクトは、この日、何度も何度も同じようにイン強襲を決めていたR.ムーア騎手に代わったプラスが実に大きかった。

 前回、天皇賞・秋では、若い菱田裕二騎手本人が「至らなかった」と残念がるのはそれは仕方がないことで、現在、世界のジョッキー界のトップに立つR.ムーア騎手の乗ったラストインパクトと比較されるのはむしろ光栄だろう。ムーア騎手、別にどのレースでもインにもぐり込むわけではないが、そこに突っ込む要求に応えられる馬だと判断した瞬間、少々芝が傷んでいようが、距離のロスを最小限にとどめるイン強襲を成功させてしまう。エリザベス女王杯を連勝したスノーフェアリーからして、選んだのは2度ともにインだった。詰まって立ち上がり、無理なコース選択だったというシーンはめったにない。

 10年くらい前、小回りの札幌に参戦したK.デザーモ騎手が立て続けにイン衝き作戦を成功させたのは、小回りコース専門の独特の騎乗技術と思えたが、R.ムーア騎手はずるい作戦でインに突っ込んでいるわけではない。危険騎乗でもない。レースのたびにイン強襲を決められては、さすがに他の騎手はちょっと……だろう。

 ラストインパクトと同じコースを選んで追走し、まったく同じところに突っ込んだ北村宏司騎手のジャングルクルーズ(父ジャングルポケット。17番人気)が、この相手に小差4着。もともと秘める才能を評価しての挑戦であり、これは見事なものだが、ラストインパクトとそっくり同じレース運びだった。ビッグレースのコース取りは複雑である。

 7着にとどまったが、0秒3差のワンアンドオンリーの、ゴール前のフットワークには復活の手応えがあった。ミッキークイーンは最大目標の秋華賞を快走した小柄な牝馬。好状態を保ってはいたが、体重減が示すように、まだしたたかな牝馬ではないということか。

ゴールドシップは有馬記念で快走してくれるのか

 問題は、ゴールドシップ。目隠しをしてのゲート先入れはクリアし、一応互角にゲートは出た。スタートしたというより、互角に出てくれた。これで有馬記念に出走することは可能になったが、ゴールドシップの凡走は、彼を知っているファンにとっては織り込み済みの凡走だが、競馬ファンには10代から90代まで、さまざまな世代のさまざまな考え方を持った人びとがいる。参加の仕方も、馬に対する考え方も千人千様だろう。凡走は最初から納得ずくのおじさんのわたしでも、こころの底では悲しいところがあるから、複雑である。ああいう馬だから、「凡走は当たり前」。しかし、「買うやつの気が知れない」というファンも、どこまでいっても単なる馬券人間で終わるような気がするから、「そうだよ」とは同意できない部分が残る。

 果たして、有馬記念で快走してくれるのだろうか。おとなしくなったのではなく、殺気が消えたのかもしれない。ベテランの芦毛馬だからぼったり見せるのは仕方がないが、スピード能力や鋭さに陰りがみえたのではないか。乗り替わったら、またゲートに入らないのではないか。全然、大丈夫そうに思えないのは、すでにGIを6つも勝って、種牡馬入りも約束され、ゴールドシップは競馬場での役目を終えたと思っているのではないか。もう、闘志に火をつける調教はできないのではないか、と感じさせたのが心配である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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