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衆目一致のクラシック最有力の1頭/きさらぎ賞

  • 2016年02月08日(月) 18時00分


いつもよりはるかにこころ躍るクラシック

 まだ2月初旬。この時点で候補の順位付けを試みるのはあまり大きな意味を持たないだろう。視野が狭まる。とくに今年の場合は素晴らしい馬が多いので、無粋に近い主観が入る危険があるかもしれない。それぞれの想いというものもあるだろう。順位付けはとりあえず別にして、近年、路線の中で最重要の位置にある「きさらぎ賞」を圧勝したサトノダイヤモンド(父ディープインパクト。母マルペンサ)が、多くの候補がそろった中で、衆目一致の最有力の1頭に躍り出たことを素直に受け止めたい。

 今週の「共同通信杯」では、ハートレー(父ディープインパクト)、スマートオーディン(父ダノンシャンティ)、ディーマジェスティ(父ディープインパクト)…などの候補が対決する。3月入るとすぐに「弥生賞」で、リオンディーズ(父キングカメハメハ)、マカヒキ(父ディープインパクト)以下の対戦も約束されている。昨年の日本ダービーでは、2着サトノラーゼン、3着サトノクラウンにとどまったものの、時期は熟した里見オーナーの当たり年で、1月31日の「セントポーリア賞」を快勝したサトノキングダム(父ディープインパクト)もさらに上昇するだろう。今年の3歳牡馬の春は、いつもよりはるかにこころ躍るクラシックになること請け合いである。

 サトノダイヤモンドの評価が一段と高くなったのは、近年の「きさらぎ賞」が、直前のトライアル「弥生賞、スプリングS」に先んじて、一連の路線のなかでときには両トライアルをしのぐくらいに非常に重要な位置を占めるからである。クラシックに関連した馬だけでも、最近10年、「ルージュバック、ワールドエース、オルフェーヴル、ウインバリアシオン、トーセンラー、リーチザクラウン、スマイルジャック、ナムラクレセント、アサクサキングス、ドリームパスポート、メイショウサムソン、アドマイヤメイン」がこのレースに出走していた。

 そのきさらぎ賞を、「ムチはいらなかったかもしれない(C.ルメール騎手)」と振り返る内容で楽勝したのが、サトノダイヤモンド。左ムチを一発だけ入れた残り1ハロンの地点では、すでに勝利は確定していた。2着レプランシュ(父ディープインパクト)以下に決定的な3馬身半差。勝ち時計の1分46秒9は、距離が1800mになった最近26年間のレースレコードである。

 2012年にレースレコード1分47秒0を記録したのはワールドエース(皐月賞2着、日本ダービー4着)だった。2着との差「3馬身半」は、2009年のリーチザクラウン(日本ダービー2着、菊花賞5着)、1998年スペシャルウィーク(皐月賞3着、日本ダービー1着、菊花賞2着)と並ぶレース史上最大着差である。

 新馬→500万下の2戦は、ともに2000mを2分03秒8。全体時計の速いレースに課題があったが、1800m1分46秒9のレースレコードを、中位から自力スパートの正攻法圧勝で、自身の上がりは34秒2-11秒3。直線追ってよれることなく真一文字。外からロイカバード(父ディープインパクト)が接近するのを待って追い出している。

 母方は、5代連続してアルゼンチンの名牝系として発展してきたが、もとはイギリスのクラシックファミリーであり、さかのぼる12代母スピナウェイ(1872)も、13代母クイーンバーサ(1860)も英オークス馬。さすがにもう同じファミリー出身とするには無理があるが、牝祖に相当するクイーンバーサ(1-w)は、イギリスを代表する巨大名牝系の出発点であり、日本で知られるファミリーでは、トウショウボーイ一族のソシアルバターフライ、ロサード一族のローザネイ、さらにはケイキロク一族、オンワードガイ一族の起点になる牝馬は、約10―10数代さかのぼるとみんなクイーンバーサに辿り着く輸入牝馬になる。いわゆるクラシックファミリーとは、このことである、と言えるかもしれない。

 皐月賞の前に1戦するか、直接、皐月賞という手法もあるだろう。仕上げの難しい馬ではなく、多くのライバルと同様にリフレッシュはノーザンファーム。心配はない。

 2着に押し上げたレプランシュは、同じノーザンFの生産馬で、同じディープインパクト産駒。輸入牝馬の芦毛の母レディドーヴィル(父ファスリエフ)は、外国産馬だった芦毛のファビラスラフイン(父ファビラスダンサー)の12歳下の妹になる。ロイカバードとともにサトノダイヤモンドをピタッとマークする位置取りから、早めに動いたロイカバードを追うようにスパート。見た目には勝ちに出て失速したロイカバードを差した漁夫の利のようにも映ったが、ロイカバードは上がり34秒5を記録して1分47秒5なので、例年のレベルなら勝ち馬であっても不思議なく、決して失速したわけではない。サトノダイヤモンドの上がり34秒2と0秒1差の「34秒3」で伸びたレプランシュの切れ味は高く評価されていい。3馬身半も離されての2着争いは、対サトノダイヤモンドには完敗の力関係でも、これからの路線の推移によっては、サトノダイヤモンドともっとも差がなかった候補に浮上する可能性がある。

 ロイカバードも同じノーザンFの生産馬で、同じディープインパクト産駒。道中、ちょっとかかり気味のロスもあってライバルの強さを浮き立たせる脇役に終わったが、母アゼリ(その父ジェイドハンター)は、24戦【17-4-0-3】の近年のアメリカを代表する名牝。4歳時の2002年から6歳時まで3年連続米古馬牝馬チャンピオンであり、2002年の米年度代表馬。

 まだこれから成長の余地がある。新馬で「0秒4」負けたサトノダイヤモンドに、今回は決定的な「0秒6」差。これは簡単には詰まらないショッキングな差だが、まだ先は長い。サトノダイヤモンドのところで、現代とは時代の離れた牝系のことを示したが、サトノダイヤモンドの20代母プルネラ(1768)は、さかのぼること250年、ロイカバードの20代母でもある。牝系ファミリーはいっぱいあるから、ずっとさかのぼればみんな同じということではない。

東京新聞杯について

「東京新聞杯」の1番人気ダッシングブレイズの残念な落馬事故があった。多くの記者仲間と何度もなんどもパトロールビデオをみて意見を出しあったが、あれは浜中俊騎手の「御法不適切により内柵に接触して落馬」と判断されて仕方がない。落馬して負傷した浜中騎手に過怠金50000円は、無慈悲な制裁のように思われるが、判断ミスによりレース中にラチに接触の落馬が生じ、何十億円もが一瞬にして無と化した制裁でもある。狭い場所での右ムチもラチに接触の原因となった。エキストラエンドの岩田騎手は危険を察知し、しばらく動かずに待っていた。となりにいただけで斜行も接触もない。浜中騎手の1日も早い回復を祈るのは全員同じである。遠因には、距離を問わずの著しいスローペース化が関係する。結果、最後まで馬群は密集しつづける。決め打ちのイン狙いは危険すぎる騎乗となる。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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