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頑張れ白毛馬

  • 2017年10月19日(木) 12時00分


 先週の日曜日、東京の2歳未勝利戦で白毛のハウナニ(牝、父ロードカナロア、美浦・手塚貴久厩舎)が勝利をおさめた。母は白毛馬による芝での初勝利や重賞初制覇などを達成した名牝ユキチャンだ。

 ちょうど白毛馬に関する原稿を依頼されていたので、余計に嬉しかった。

2008年6月18日、川崎ダート2100mで関東オークス(GII)が行われ、ユキチャンは武豊騎手を背に参戦。


 上の写真は、ハウナニの母ユキチャンが白毛馬による重賞初勝利をおさめた関東オークスのパドックで撮ったものだ。

 ユキチャンの活躍を機に白毛が注目されるようになり、私は、ユキチャンの故郷のノーザンファームや、日本で初めて誕生した白毛の競走馬ハクタイユーの血をつなぐ北島牧場などを取材し、白毛に関する記事を数本書いた。最近のことだと思っていたのだが、もう9年前になる。

 今回、執筆にとりかかる前に、それらの記事や資料を読み込む作業に一日半ほどかけた。そして原稿の方向性を固めるべく、編集者からのメールを読み直して愕然とした。6000字の原稿を依頼されたと思っていたのだが、600字だった。原稿料も、めでたくゼロをひとつ勘違いしていた。

ハクタイユーの仔で、白毛馬による日本初勝利を挙げたハクホウクン。2008年撮影。


 6000字、つまり原稿用紙15枚なら、ハクタイユーからつながる父系の白毛と、シラユキヒメから始まる母系の白毛の両方について書けると思っていたのだが、1枚半ではそうはいかない。泣く泣く母系の話に絞ることにしたので、上の写真のハクホウクンなど、父系でつながる白毛については書くことができなくなった。

 なので、調べ直したデータなどを含め、ここに記したい。

 今、日本で最も長く、また多くの世代にわたってつながれている白毛は、1979年に浦河の河野牧場で生まれたハクタイユー(父ロングエース=黒鹿毛、母ホマレブル=栗毛)から始まる父系の血だ。

 97年、ハクタイユー産駒のハクホウクン(母ウインドアポロツサ=栗毛)が大井で白毛馬による初勝利を挙げた。

 ハクホウクンの娘のハクバノイデンシ(母フラッシュリリー=栗毛)は未勝利に終わったが、2012年に生まれたハクバノイデンシの娘のミスハクホウ(父アドマイヤジャパン=栗毛)は地方で3勝を挙げるなど活躍。今年5月と8月には、盛岡で藤田菜七子騎手が騎乗し、それぞれ4、5着となり話題になった。

 また、ハクバノイデンシの全妹ハクホウリリーの娘ダイヤビジュー(父ディープスカイ=栗毛)も昨年まで南関東で走っていた。

 ハクタイユーが生まれてから今年で38年。4世代にわたって血がつながれたわけだが、現在、ハクタイユーの血を引く白毛の現役競走馬はいない。繁殖牝馬となったハクバノイデンシもハクホウリリーも今年は種付けしていないようだし、ダイヤビジューの引退後の進路もまだ調べ切れていない。ハクホウクンの産駒で、北島牧場で白毛の後継種牡馬となったハクタイヨー(母ロッチウインド=栗毛)も種付けしたという記録がない。

 当サイトに佐々木祥恵さんが昨春書いた記事を読み、ハクホウクンやハクバノイデンシ、ハクホウリリーなどを所有した株式会社ヤナギスポーツ代表の柳田清さんが亡くなっていたことを知った。柳田さんは、ハクホウクンが生まれたというニュースをテレビで見た翌日、内金の300万円を手に牧場に向かったというほど、白毛に対して情熱を持っていた人だ。佐々木さんの記事によると、柳田さんは種子島に白毛牧場をつくる構想を抱いていたこともあったという。私が取材したときも、白毛馬の魅力について、とても熱く、楽しそうに語ってくれた。

 そんな柳田さんが愛した白毛の血がどうつながれていくのか、今後の推移を見守りたい。

 それに対して、勢い、人気ともに衰えを知らないのが、1996年にノーザンファームで生まれたシラユキヒメ(父サンデーサイレンス=青鹿毛)からつらなる白毛の母系だ。

 息子のホワイトベッセル(父クロフネ=芦毛)が白毛によるJRA初勝利を挙げ、その全妹のユキチャンが、前述したように白毛による芝初勝利、特別初勝利、重賞初勝利をマーク。

 そのユキチャンの娘のハウナニ(父ロードカナロア=鹿毛)が、順調に行けば来春のクラシック路線に乗れそうな能力を見せている。

 こちらの系統もシラユキヒメが生まれてから21年と、結構な年月になった。始祖(と言うには若いが)のシラユキヒメがサンデーの牝馬で、競走馬として大きな実績を築いたユキチャンが、最強スプリンターとの間に素質馬を産んだ。同じノーザンファームの基幹牝馬ダイナカールからエアグルーヴ、アドマイヤグルーヴとつらなる牝系で言うと、シラユキヒメがダイナカール、ユキチャンはエアグルーヴのようなポジションか。

 この一族には、白毛ではなかったとしても繁栄していたと思われる強さと血の豪華さがある。ユキチャンが川崎に移籍してから管理した山崎尋美調教師が「強(つよ)かわいい」と表現したルックスと走りで、多くの人々に目を向けさせた功績も大きい。それもあって、冒頭で「名牝」ユキチャンと表現した。

 これまで日本で確認された白毛馬は30頭ほどだ。白いというだけで、どうしてこんなに気になってしまうのだろう。前に取材した東京農業大学の横濱道成名誉教授も「能力とは直接関係のない付随的な遺伝子なので、『白毛が出現するメカニズムを解析して何の役に立つのですか』と言われても、実はよくわかりません」と苦笑していた。

 白毛は、理屈抜きで見たくなる存在、ということか。いてくれるだけで嬉しい、そんな白毛たちに、これからも頑張ってもらいたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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