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青梅特別と高速コンディションが微妙に影響した展開/ユニコーンS

  • 2018年06月18日(月) 18時00分


◆歴史的なダート巧者一族の血を引いているルヴァンスレーヴ

 直前の1000万条件「青梅特別」ダート1600mを1分35秒2(上がり35秒3)の快時計で楽勝したのは、3歳馬シヴァージ(父ファーストサムライ)。ユニコーンSにも第一回登録はあったが、グリム(父ゼンノロブロイ)と同じ野中厩舎。同じオーナーであり、こちらは除外の危険があったため重賞挑戦は見送った。除外されてからでは、青梅特別もフルゲートを超えているので再投票での出走は不可能であり、結果、最初から青梅特別に回った陣営の判断は大正解だった。

 この結果から、メインは速い時計が予測され、また、積極的に先行することが高速コンディションに対応する最善策と思われた。ただ、このことが微妙に影響する。

 重馬場発表の高速ダートに、すでに高い適性を示していたのは、10月の不良馬場の東京ダート1600mで1分36秒2(2歳JRAレコード)を記録していたルヴァンスレーヴ(父シンボリクリスエス)であり、高い支持にこたえ1分35秒0のレースレコードで快勝してみせた。

重賞レース回顧

高速ダートの適性を見せていたルヴァンスレーヴがレースレコードで快勝(撮影:下野雄規)


 もともとスタート直後の出脚は良くない馬だが、ここまでコンビで【3-0-0-0】のMデムーロ騎手はルヴァンスレーヴの良さを理解している。最初は後方追走になったが、まったく動じることなく、3コーナー手前までは先行=好位グループのきつい位置取り争いのロスを見透かしたかのように動かず、3コーナー過ぎから外を回って順位を上げた。

 レース全体の流れは「47秒1-(1000m通過59秒4)-47秒9」=1分35秒0なのでそれほど速いわけではない。しかし、2着したのは出負け気味のスタートから、直線に向いた地点では中位から追い込むことになったグレートタイム(父キングカメハメハ)であり、3着に突っ込んだのは、後方追走から最後はインを衝いて伸びたエングローサー(父トランセンド)なので、結果は、前半は後方に位置したグループが上位「1、2、3着」独占の形になった。

 レース後、Mデムーロ騎手は「あまりペースは速くなかった」と振り返ったが、好位を取るために先団にいたグループは、ペース以上にきびしい展開(ゴチャついていた)になったのは事実であり、それを避け自信満々に途中から外を回ってスパートしたルヴァンスレーヴの強さが際立つことになったのである。

 父シンボリクリスエス(19歳)は、知られるように高い評価のわりにGレースを勝つ産駒が少なかったため、途中からちょっと評価が下がってスタリオンを移動し、ここ2〜3年は種付け頭数も減っている。だが、美しい馬体と高い能力は確実に受け継がれ、ブルードメアサイアーの順位はどんどん上がっている。今回のルヴァンスレーヴのダートでの快進撃は初期のサクセスブロッケンを思わせたところがあった。今年はサンライズソアも平安Sを勝っている。時計の速いダート競馬を得意とする産駒がまだまだ登場することだろう。ルヴァンスレーヴの牝系は、ダイナフェアリー、ローゼンカバリーが代表する輸入牝馬ファンシミン(USA産。父デターミン)系。種牡馬デターミンの祖母ブラウンビスケットは、その名前が示すようにシービスケットの半妹だった。もともと歴史的なダート巧者一族の血を引いているのである。

 2着に押し上げたグレートタイムは、その母ミラクルレジェンド(12勝)、ローマンレジェンド(10勝)などとともに輸入牝馬パーソナルレジェンドから発展する一族。名うてのダート巧者の一族なのでこのくらい走って当然か。スタート一歩で流れに乗れないことがあるが(今回は流れの不利はなかった)、ここまで1800m【2-3-0-0】なので、1600mより母ミラクルレジェンドがもっとも得意とした1800m(レパードSなど)向きなのだろう。今回は、直線に向いて前が詰まりスムーズに馬群をさばけないロスがあったが、最後は底力で2着を確保した。血統図をみると、5代母サンタキラ(父サンクタス)はミエスクの祖母に登場する牝馬である。なぜミエスクか、名種牡馬キングマンボの母がミエスクなので、父キングカメハメハにもミエスクは関係する。つまり、偶然ではなく意図的に、グレートタイムは牝馬サンタキラの「5×5」という配合になった。

 前半行けなかったエングローサーは、インキープ。直線は行くところがなく改めてインに突っ込むと、一旦は2番手に上がる勢いだった。ゴール寸前、外のグレートタイムにさらに脚を使われてしまったが、さすがトランセンド産駒。ダート転向後【1-0-2-0】となった。ダートのGI格4勝の父トランセンドは、第1回のレパードSを勝っている。ミラクルレジェンド(第2回の勝ち馬)産駒のグレートタイムとともにレパードSに向かう可能性が生じた。

 流れ自体はムリなハイペースではなかったから、先手を主張した16番人気のセイウンクールガイ(父ヨハネスブルグ)が5着に粘ったが、立派だったのは2戦だけのキャリアで、先行争いをしながら4着にがんばった10番人気のホウショウナウ(父ゴールドアリュール)。左回りも、距離1600mも初めてだった。これからが非常に楽しみになった。

 素晴らしい状態に映った2番人気のグリム(父ゼンノロブロイ)は、好スタートから5〜6番手追走の積極策に出ると、直線でもまだ脚はあったが、前にも横にもカベができて身動きが取れなかった。ここまで先行抜け出し策で結果を出してきたのでこう乗るしかないが、もまれる展開をこじあける脚まではなかった。3歳馬のダート戦だけに、どこかで外に回る手があったかもしれない。

 同タイプのハーベストムーン(父マンハッタンカフェ)も、「この馬場では先行しなければ…」の正攻法が結果的に裏目。直線の攻防で(もう脚もなかったが)激しくはさまれてしまった。コマビショウ(父エンパイアメーカー)は、初の東京ダート1600m。これが落とし穴で、最初の芝の部分の出脚が良くなかった。

 10Rの青梅特別を1分35秒2で快走したシヴァージは、すんなり流れに乗れたのが大きかった。少なくとも同程度の能力があるはずのユニコーンSの注目馬には、少々流れがきつかったとはいえ結果が出せなかった馬が多い。まだキャリアの浅い3歳だけに、ダートでもまれ通しの馬群の中に入ると、案外な結果もあるということか。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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