小枝佳代アナウンサー Part1
日本で唯一の女性競馬実況アナウンサー・小枝佳代さん。実況の道を歩み始めた当時のお話や、声にまつわる秘話を語ってくださいました!

■なに考えてるんだ?
- 井上:
- 小枝さんが実況アナウンサーを始めたきっかけって?
- 小枝:
- まだ帯広競馬場でホッカイドウ競馬のレースが行われていたときに、馬紹介や配当金をアナウンスするアルバイトをしていたんです。で、ホッカイドウ競馬の実況をしていた稲垣聖(故人)さんに、「実況をやってみないかい?」と誘われて。
- 井上:
- それですぐに「やってみよう」と?
- 小枝:
- いや、最初は「このオジサン、なに考えてるんだろう。できるわけないじゃないか」と思いました(笑)。
- 井上:
- やはりアナウンスと実況は違いますか。
- 小枝:
- 全然違いますね。当時、放送局のアナウンサーだった井口保子さんは競馬の実況をしていましたし、アルバイトの女性が実況をしている競馬場もあったんですけど、職業として競馬の実況をしている女性はいなかったんですよ。だから「チャレンジしてみようかな」と思って。
- 井上:
- なるほど。
- 小枝:
- それから4か月間は練習、練習でした。1Rから最終Rまでの実況をテープに撮ったものを師匠の稲垣さんに聴いてもらって、アドバイスしていただいたりしました。開催日に放送室の脇で練習していると、常連のオジサンが「がんばれよ〜」なんて言って、のど飴くれたりして(笑)。
- 井上:
- 16年前です。遠い昔の話(笑)。
■初陣はハチャメチャ!?
- 井上:
- 16年前というと、競馬に携わる女性はまだ少なかったですよね。
- 小枝:
- 私が実況を始めた頃、競馬の世界は完全に男社会で閉鎖的なところがありました。実況の上手下手よりも、女性というだけでシャットアウトされることもありましたね。ただ、年月と共にだんだん認められてきて、いまは全然平気になりました。
- 井上:
- 小枝さんの初陣はいかがでしたか?
- 小枝:
- ハチャメチャでした(笑)。初めて女性の競馬実況アナウンサーがデビューするということで、TV局や新聞社の取材がたくさんきてくださったんです。だから余計に舞い上がったし、緊張しましたね。レース後、師匠には「40点」と言われました(笑)。
- 井上:
- あらー。
- 小枝:
- デビューして10年を過ぎた頃だったかな? ブリーダーズゴールドCを初めて実況したときも、緊張しましたねえ。
- 井上:
- 夏の名物交流重賞ですね。今年は8/16に行われます。
- 小枝:
- このレースは、私が女性ということもあって、ずーっと喋らせてもらえなかったんです。
- 井上:
- それが晴れて解禁されたとなると、おのずと注目が集まって緊張感が…。
- 小枝:
- 事情をわかっているファンの方から「がんばってね」というメールをいただいたりしたんですよ。これは励みになりましたね。
■「ソ」から「ド」に下げよう
- 井上:
- 本師匠の稲垣さんからは、どんなことを教わったんですか?
- 小枝:
- ホッカイドウ競馬では、「テレホン実況サービス」がいち早く始まったんです。だから場内でレースを見ている人だけでなく、電話を聞いている人のことを考えるように言われました。
- 井上:
- いきなり高いハードルが!
- 小枝:
- 見て、考えて、すぐに喋る。的確に描写することを心がけて。といっても、間違えると、実況しながら「あ、違ったな」って反省しちゃう。「反省しちゃダメだ」って、よく怒られました。「後に引きずるから、スパッと切り替えろ」と。
- 井上:
- 文章なら何度も書き直せるけど…。
- 小枝:
- そうですね。実況では、一度言ってしまったことを、消しゴムで消すことはできません。厩舎の方に怒られたこともあるし、ファンの方から苦情が来ることもある。逆に褒めてもらえることもあります。いつまでやっても「100点」はないですね。
- 井上:
- うう、想像しただけで卒倒しそうです。
- 小枝:
- それと、最初の頃は実況のトーンがすごく高かったんですよ。レースが進むうちにだんだん力が入ってきて、ゴールの頃には甲高い金切り声みたいになっていた。それで「これではいけない」と試行錯誤をしているときに、スタート時の声のトーンを下げればいいことに気がついたんです。「五線譜でいえば「ソ」の音からスタートしていたのを、「ド」の音にすればいいわけだ」って。
- 井上:
- 小枝さんのクールな実況の秘密はそこにあるんですね。「この仕事をしていてよかった」と感じるのはどんなときですか?
- 小枝:
- 競馬を通じて、いろんな人との出会いがありました。アナウンサーフェスティバルや女性ジョッキーのレースのときに色々な競馬場に行って、全国各地の人と知り合えたことが、大きな宝になっていますね。
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