想い出のジャパンC オグリキャップJC激闘譜

年号が昭和から平成に移り変わった頃、バブル経済とともに激動の時代を走り抜けた芦毛の怪物。いまだ競馬史に語り継がれる世界レコードが掲示された1989年ジャパンC、彼の激闘を振り返る。

今から18年前、その年の東京競馬場で一番のどよめきが起こった。万全を期して臨んだ外国馬に、猛然と立ち向かった満身創痍のオグリキャップ。最後の直線、日本中のだれもがオグリの名を叫んだあの日、筆者は混み合うスタンドで、レコード決着に沸いた激闘を目の当たりにしたのだった。

オグリキャップのベストレース

マイナーながら脈々と流れる底力の血統。笠松出身という地方馬の運命。クラシック登録のない悲哀。そして昭和最後の年を彩った1年先輩の芦毛馬タマモクロスとの激闘。2頭の芦毛馬が鮮やかな西日を浴びながら枯れ芝を駆け抜けた昭和63年秋の天皇賞は、今でも僕にとってMost Beautiful Raceだ。

勝ってドラマを紡いだオグリキャップは、負けてもやはり絵になった。

オグリキャップ

所属
栗東・瀬戸口勉厩舎
父名
ダンシングキャップ
母名
ホワイトナルビー
戦績
32戦22勝(地方戦績含む)
主な勝ち鞍
有馬記念(88年、90年)
マイルCS(89年)
安田記念(90年)

僕にとってオグリキャップのベストレースは、3度目の挑戦で宿敵タマモクロスをついに破った有馬記念ではない。復帰緒戦を楽勝して中山競馬場に詰めかけた客を狂喜させたオールカマーでも、イナリワンとの死闘を制してウインズ後楽園にたむろした客の度肝を抜いた毎日王冠でも、南井克巳渾身のムチで武豊騎乗のバンブーメモリーを差し返して杉本清アナウンサーを絶叫させたマイルCSでも、奇跡の復活劇で現役生活を締めくくった伝説の有馬記念でもない。

2着に敗れた平成元年のジャパンCだ。

オグリキャップは2番人気。1週間前に大接戦の末、マイルCSを制していた。彼の休養中に、馬主が脱税容疑で逮捕された。彼は新馬主の所有馬となった。相当なトレードマネーが動いたらしい。新馬主は復帰後の彼を酷使した。オールカマー、毎日王冠、天皇賞・秋、マイルCS、そして連闘でジャパンC。こんな使い方、21世紀では有り得ない。だが、こんな使役が彼を伝説に昇華させたと言えなくもない。

当時の芝2400mの世界レコードホルダーだったホークスターを制して、イブンベイがハナを奪った。ホークスターはすかさず2番手。まったく緩みがないペース。1800mの通過ラップは当時の日本記録を上回っていた。常軌を逸している。

直線に入り、先行馬2頭は失速。当り前だ。替わって先頭に立ったのはニュージーランドの女傑ホーリックス。道中は3番手に控え、満を持したスパート。この女、何ちゅう底力だ。一方、日本期待のスーパークリークはじれったいほど伸びがない。

そこにオグリキャップが来た!

同じ2枠、同じ芦毛のホーリックスを、2馬身、1馬身、半馬身と追い詰める。大歓声が府中の杜にこだまし、樹々が倒れんばかりに揺れ動いた。大音量の直撃を受けたターフビジョンにヒビが入りかけた。府中市役所には「何が起こったのか」と住民からの問い合わせが相次いだという。

だが、クビ差まで追い詰めたところがゴールだった。

1989年 ジャパンC

89年ジャパンC

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形容する言葉もない激闘は、2分22秒2という世界レコードの決着。そして枠連は2-2。だが、そんな2づくしの数字など問題じゃない。

一緒に観戦した僕の仲間はホーリックスの単勝馬券を買っていた。オッズは20倍近い。穴党ギャンブラーとして的を射た狙いだ。ところが奴はオグリキャップのせいで我を忘れ、自分が買った馬券のことも忘れてしまっていた。

クビ差でオグリキャップが負けた直後だった。奴は「負けたーっ!」と絶叫した。そして悔しさのあまり、的中馬券を引きちぎって投げ捨てた!……数秒後、奴は「やっちまったーっ!」とさらに絶叫した。

こういう馬鹿を笑わば笑え。だが笑う前にわかってくれ。オグリキャップという馬には常識を覆す何かがあったのだ…。

時は流れて平成17年、第25回ジャパンC。ホーリックスの記録がついに破られた。彼女の名前はレコードホルダー欄から消えてしまった。

だが、ゼンノロブロイが負けてアルカセットの単勝馬券を破り捨てた奴はいたか?16年前にはいたんだ、そんな奴が。オグリキャップという馬のせいで…。

今道順(こんどうじゅん)

愛知県出身の45歳。某TV番組でディレクターを勤める傍ら、血統・サイン・ロマン…など様々な要素を交錯させた個性的な理論を展開する予想家でもある。中央競馬のみならず地方競馬にも精通しており、当コラムにあるようにマル地のオグリキャップに酔狂する熱血漢である。


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