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陣営の読みに、岩田騎手の好騎乗が見事に重なったGI初勝利

  • 2014年11月25日(火) 18時00分


直線のコース取りはまさに岩田騎手の真価

 高速の芝コンディションのなか、内枠からスイッチの入ってしまった3歳ホウライアキコが引っ張り、1分31秒5(45秒3−46秒2)のレースレコードの決着となった。

 勝ったダノンシャーク(父ディープインパクト)は、1分33秒3で6着だった4歳時(6番人気。浜中騎手)、1分32秒7で3着の5歳時(1番人気。福永騎手)につづき、今回が3度目の出走であり、8番人気の今年は一転、挑戦者の立場だった。

 早めに正攻法でスパートするとゴール前が甘くなるので、大久保龍志調教師から「先にだけは行かないで欲しい」という注文のついたテン乗りだったと伝えられるが、これは陣営の、そして岩田康誠騎手のファインプレイである。前2年に比べれば気楽な立場はたしかだが、外枠12番ながらいつのまにか内に入り、中団より後方から追走。直線のコース取りはまさに岩田騎手の真価。コーナーを回ってしばらく、あっというまに最内に突っ込んでみせた。

 一連のレース内容からダノンシャークがいまになって急に強くなったわけもなく、もうマイルCSには最後の挑戦となるかもしれないと考えた陣営の、これまで以上の猛調教がダノンシャークを目覚めさせたのかもしれない。陣営の読みに、岩田騎手の好騎乗が見事に重なったGI初勝利だった。

 2着フィエロ(父ディープインパクト)は、完全に勝った競馬だったが、ダノンシャークに150点くらいのレースをされてしまった。今回は仕方がないと、称えたい。5歳馬とはいえ、休み休みで今回がまだ12戦目。このハナ差負けは苦しいレースを重ねた経験の差だったろう。福永騎手にしてみれば、ダノンシャークは前回、自分が乗っていた馬であり、その馬にインから差されたのは痛恨だが、フィエロのレースの中身は勝ち馬に一歩も見劣るものではなかった。

 GIで6回も連続して重賞未勝利馬が勝つことになってしまうではないか。フィエロが勝つとWIN5が1票だけ的中してしまうというではないか。勝利の女神がちょっといじわるしたようなゴール寸前の逆転だった。

 苦しいレースをした経験がないといえば、その弱みが露呈してしまったのは1番人気の3歳馬ミッキーアイル(父ディープインパクト)。自身のレース結果の中身は「前半1000m通過56秒7−上がり3ハロン36秒1」=1分32秒8である。超高速馬場だから時計の比などほとんど意味はないが、3歳馬としてマイルCSを制した2000年のアグネスデジタル(GI6勝)こそ1分32秒6だったが、馬場コンディションはまるで異なるとはいえ、タイキシャトルは1分33秒台、サッカーボーイは1分35秒台であり、究極の総合スピード勝負になるマイルCSを、3歳馬が1分32秒台で乗り切って古馬に競り勝つのは、歴史のなかでもありえないこと。アグネスデジタルは別名、ミラクルホースだった。

 ダノンシャーク(昨年1番人気)の例を持ち出すまでもなく、もし、ミッキーアイルのスピード能力と、もっと広がる可能性を信じるなら、来年もまた買わなければならない。

 トーセンラー(父ディープインパクト)は、昨年はいきなり1分32秒4(上がり33秒3)。初の1600m出走でありながら鮮やかにこのGIを制したように、高いマイル適性も秘めるが、3200mの天皇賞・春も3分14秒4で乗り切っている万能タイプ。同じディープインパクト産駒のなかでは、ダノンシャークや、フィエロのように、ことマイルなら1分31秒台で乗り切ることもできる本質マイラーとはちょっと色合いが異なるのだろう。「時計が速すぎた(武豊騎手)」というしかない。ダノンシャーク、フィエロは3200mを3分14秒台では乗り切れない。

 人気の1頭ワールドエース(父ディープインパクト)は痛恨の出遅れ。春のマイラーズCで対戦したフィエロ、エキストラエンド(父ディープインパクト)に大きく逆転されてしまった。毎回乗り変わっている馬だから、P.ブドー騎手(21)でのプラスもありえたが、チャンス十分のGIとあって気が入りすぎたのだろう。テン乗りの若いブドー騎手は責められない。

最後の40-50mだけで勝負を決めたR.ムーア騎手のサトノクラウンはすごすぎる

「東京スポーツ杯2歳S」は、スローになったため、坂上の残り1ハロンで10頭近くがほとんど横一戦に並ぶ2歳戦とは思えないシーンが展開した。「突き抜けたと思った」「うまくはまって差し切ったと思った」というレース後のコメントが複数の惜敗した陣営からもれたが、そのことが逆に、勝ったサトノクラウン(父マルジュ)、勝ったにも等しいアヴニールマルシェ(父ディープインパクト)の能力の高さを裏付ける証言になるだろう。

 行き場を探し、猛然と馬群を切り抜けたアヴニールマルシェも見事だったが、最後の40-50mだけで勝負を決めたのではないかと見えたR.ムーア騎手のサトノクラウンはすごすぎる。

 あまりにも整った美しい馬で、上品すぎるゆえ、陣営でさえ乱戦に持ちこまれ、たくましさが求められるはげしいクラシック向きではないかも知れない、との評価もあったというが、瞬間移動のごとき爆発力は候補のそろったここでも1頭だけ抜けていた。スピード色は濃いが、2000m−2400mなら平気と思える。美少年の候補誕生である。ムーア騎手の動きにドンピシャはまりすぎていたから、この次に乗るジョッキーは大変である。新馬戦と同じで、スローペース追走だから猛然と切れたのだろうか。春の中山でも大丈夫だろうか。

 注目されたハービンジャー産駒は、こういう上がりだけの競馬はまったく不向き。候補の多いハービンジャー産駒に乗る騎手は、今後の路線では作戦を考えないと切れ味負けするだろう。自らスパートして相手に脚を使わせないと、本当の良さは生きないと思えた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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