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【桜花賞】阪神JFのワンツーを逆転する勝利 ステレンボッシュを導いた“マジックマン”の技巧

  • 2024年04月08日(月) 18時00分

ライバルを横に置いた鮮やかなコース取り


重賞レース回顧

桜花賞を制したステレンボッシュ(c)netkeiba



 2番人気ステレンボッシュ(父エピファネイア)の好時計の逆転勝ちが決まった。例によってスタートは良くなかった。だが、J.モレイラ騎手のすごいところは少しも慌てるシーンがなかったこと。前半は馬群に揉まれながらも変に動いたりせず、ジッと我慢している。少しだけ進出してレースの中盤にさしかかると、幸運なことにすぐ近くに目標とすべきアスコリピチェーノ(父ダイワメジャー)の姿があった。

 あとはアスコリピチェーノを射程に入れながら、どういう進路を取って、どこでスパートするかの勝負だった。4コーナーにさしかかる直前、負けられない立場のアスコリピチェーノが外から少し動き始めた。モレイラ騎手のステレンボッシュは、接触こそしなかったがアスコリピチェーノを少し外に振るかのようにその内からスパートを開始している。

 アスコリピチェーノの北村宏司騎手に決して隙があったわけではない。だが、すぐ横にライバルを置いたモレイラ騎手の、したたかで巧妙な、ライバルを決して自分より有利な位置に入れないコース取りがあまりにも鮮やかだった。多くのファンが、今回はコース取りとスパートのタイミングひとつで阪神JFの「クビ差」は逆転があると考えたはずだが、まったくその通りの追い比べになった。勝ったのはステレンボッシュだが、勝利に導いたのは明らかにマジックマン=モレイラ騎手の技巧だった。

 阪神JFをレースレコードの1分32秒6で大接戦だった2頭のマイル戦での能力は本物だろう。桜花賞が1番人気と2番人気馬で決着したことは、この20年間に、「ラインクラフト、シーザリオ」の2005年から、ブエナビスタの2009年、マルセリーナの2011年、ハープスターの2014年、アーモンドアイの2018年、デアリングタクトの2020年、ソダシの2021年、そして今年の「ステレンボッシュ、アスコリピチェーノ」まで、計8回もある。名牝の勝ち負けした年ばかりである。桜花賞は秘められた素質をアピールするレースだからだ。

 馬場差もあれば、レースの流れも関係するので、走破時計が高い能力を示すとは限らないが、今年の勝ち時計「1分32秒2(前後半46秒3-45秒9)は現在のコース形態になって以降、歴代3位。かなりのハイレベルを示している可能性が高い。これで、皐月賞を牝馬のレガレイラ(父スワーヴリチャード)が勝ち負けに持ち込むようだと、またまた牝馬の世代になるかもしれない。

 3着ライトバック(父キズナ)も、4着に突っ込んだスウィープフィート(父スワーヴリチャード)も、前者の上がりは32秒8(1位)、後者は33秒0(2位)が物語るように、決して展開の利があったからの快走ではない。ライトバックは1600mがベストではなく、距離不足と思われる心配があった。スウィープフィートも、GIを3勝もした祖母スイープトウショウが本物になったのは3歳秋以降のこと。今回はまだ幼い印象を与える馬体だった。

 内枠を引いて前半からスムーズな追走とはならなかった8着クイーンズウォーク(父キズナ)は、スケールはあってもマイル戦向きではない懸念が濃かった。また、C.ルメール騎手の負傷で、鞍上が直前になってB.ムルザバエフ騎手になったチェルヴィニア(父ハービンジャー)は、引いたのはなんと大外18番枠。レース前から勝負事に必要なツキに完全に見放されている。とても今回が実力とはいえない。やがては上位3頭と互角以上になるくらい、これから大きく飛躍してくれるはずだ。

 まだ若い3歳牝馬が、みんなそろって能力を全開できることはない。タフな牝馬と見えたコラソンビート(父スワーヴリチャード)は、今回のメンバーでは早い時期に1分33秒1のコースレコードを記録していたキャットファイト(父ディスクリートキャット)などと並んで最多出走回数タイの7戦目。前半から気負ってかかってしまうなど、元気いっぱいに見えて変調をきたしていたのかもしれない。今回のペースとほとんど同じ阪神JFではマイル戦をこなしている。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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