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クラシック展望が一気にひらけた/朝日杯FS

  • 2014年12月22日(月) 18時00分


父の本当の良さを受け継いでいるのかもしれない

【次回公開日変更のお知らせ】
 次回の「重賞レース回顧」更新は12月30日18時の公開となります。予めご了承くださいますようよろしくお願い申し上げます。

 1週前の阪神JFを勝ったショウナンアデラ(父ディープインパクト)と同じく、蛯名正義騎手の乗った1番人気のダノンプラチナ(父ディープインパクト)が、後方からのスパート成功。楽々と差し切り勝ちを決めた。

 波に乗る蛯名騎手は、前半は後方になったがまったく動じることなく自信満々に追走。4コーナー手前で先行グループを射程に入れると、先頭に立っていたクラリティスカイ(父クロフネ)をあっというまに交わし、着差こそ少ないが、あざやかな完勝だった。

 芦毛馬はときに体の線がゆるく映ったり、太めにみえたりすることが珍しくないが、ダノンプラチナは472キロの馬体重のわりには、牝馬のようにちょっと非力で頼りなく映った。しかし、稍重のタフなコンディションの芝を楽々とこなしたから見事。レース前はマイラータイプの評価が多かったが、クラシック展望が一気にひらけた。日本ダービーの2400mはともかく、皐月賞の2000mはまったく心配ない。春の中山はタフな芝状態もありえるが、坂のある阪神で渋った馬場をこなした自信は大きい。

 総合サイアーランキングも、2歳サイアーランキングも首位を独走するのが当たり前になった種牡馬ディープインパクト。その影響力のすごさを改めて形容するにはかなり特殊な言葉でも探さないと、並みの賞賛は陳腐になりかねない。先週のGIも、今週も、たった1頭の出走で確勝である。また今年もチャンピオンサイアーの座を確定的にしてしまった、で十分か。馬体そのものはさして目立たないという点で、ダノンプラチナはディープインパクトの本当の良さを受け継いでいるのかもしれない。

 属する牝系の、近年の主な活躍馬は次のようになる。蛯名正義騎手にとっては、主戦だったマツリダゴッホ(有馬記念優勝)と同じファミリー出身のGI馬である。


 14番人気のアルマワイオリは、勝ったダノンプラチナのファミリーの代表馬マツリダゴッホの産駒で、祖母は1992年の阪神3歳牝馬S(現在の阪神JF)を9番人気で大駆けして勝ったスエヒロジョウオー(父トウショウペガサス)。4着止まりだった前回のデイリー杯2歳Sは、かかって先行してしまった。札幌の新馬戦からコンビの勝浦騎手が「いいところを生かせませんでした。すいません。次はこの経験を生かしたい」と悔やんだ馬。今回の勝浦騎手は、前走後のコメント通り、下げて折り合って進み、イン狙いに徹し、最後はダノンプラチナを4分の3馬身差に追い詰めてみせた。穴馬の血はつながっている。スエヒロジョウオーの孫を忘れてはいけない、と刻んだつもりだったが、前回は◎だったことまで忘れていた。このタイプ、おそらく次の快走も忘れられたころかもしれない。

 3番人気のクラリティスカイ(父クロフネ)は、好位の外につけ、うまく流れに乗って非の打ちどころのない正攻法のレース運び。直線中ほどで抜け出したときは勝機、と思えたが、もうそのときは直後に接近したダノンプラチナの射程に捕らえられていた。完成度の高いマイラータイプだけに、あの形になって差されたのは陣営も、岩田騎手もちょっとショックだろう。人気馬らしい正攻法で、あまりに綺麗なレースになって、ことがうまく運び過ぎたのかもしれない。

 ネオルミエール(父ネオユニヴァース)は、差しタイプ有利の流れ「前後半47秒3-48秒6」になり、直線は猛然と突っ込んできたが、最内枠でダッシュもう一歩の不利が痛かった。ただ、3着クラリティスカイとともに、新設重賞「いちょうS」組の全体レベルがかなり高かったことを示す結果だったろう。たしかにマイラー体型には映るが、父は日本ダービー馬、母はオークス馬。もう少し距離は延びたほうがレースはしやすい印象が残った。

 2番人気のブライトエンブレム(父ネオユニヴァース)は、洋芝の札幌2歳Sを強烈な差し脚で快勝した内容から、この日のような芝は合っていると思えたが、上がりがかかる流れだったわりに直線の伸び脚もう一歩。外を回って早めにスパート体勢に入り、4コーナーを回った地点では勝ち負け必至とみえたが、外からスパートしていく同馬を、蛯名騎手(ダノンプラチナ)はやり過ごすように見ていたから、勝とうと、ちょっと動くのが早かったかもしれない。また、マイラータイプでもないだろう。

 注目のアッシュゴールド(父ステイゴールド)は、最後方追走から、直線は大外へ。この兄弟のこなせる距離の幅は広く、全兄ドリームジャーニー(2006年の勝ち馬)を思えば、台頭して少しも不思議はない。だが、この兄弟は、成長過程で朝日杯FS挑戦など、1600m前後に出走するのはプラスが大きいと判断されているだけのことで、アッシュゴールドはまさか朝日杯FSを大きな目標としてきたわけでもない。それに、そんなにポンポン出世していく兄弟でもないはずであり、上がり35秒5は、インを突いたアルマワイオリ、馬群に突っ込んだネオルミエールと数字の上では同じ。ダノンプラチナも35秒4だった。十分に伸びている。

 好ましい結果が出るのはもう少しあとか、あるいは2000m級になってからではないか。ドリームジャーニー、オルフェーヴルに続き、弟もGIホースに育ったらそれはどんなにか素晴らしいだろうが、馬だって遺伝の不思議は人間と同じ。はたして、全兄弟3頭がGIホースに育つ可能性はいったいどのくらいあるのだろう。数字は天文学的であっても驚けないが、十分に可能性はあるように思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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