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カルストンライトオと同レベルのスプリント適性を見せた快勝/アイビスSD

  • 2015年08月03日(月) 18時00分


来年は54秒のカベ突破も

 2002年、4歳カルストンライトオが新潟直線1000mをレコード勝ち。2馬身差の逃げ切りを決めたときのラップは、

  「12秒0-09秒8-10秒2-09秒6-12秒1」=53秒7

 今年の4歳牝馬ベルカントが快勝した「自身のラップ」は、

  「12秒1-10秒1-10秒3-10秒1-11秒5」=54秒1

 だった。カルストンライトオの後半600mは「31秒9」。1度先頭を譲り、後半抜けだしたように映ったベルカントの後半600mも「31秒9」である。

 ハイレベルな直線1000mの理想の勝ち方は、前半の400mを未勝利や500万より遅いくらいになだめて進み、後半スパートするのが必殺パターン。

「前半400m-後半600m」を、【22秒0-32秒0】=54秒0。限りなくこれに近いバランスを作り出すとき、レコードと差がない54秒0前後のタイムが計時できるとされる。

 200mごとのラップは、例えるなら「緩―(急)―緩―(急)―全力」。ただ飛ばしたのでは、オープン馬といえども54秒0前後は苦しい。いかになだめて進めるかである。

 初めて新潟直線1000mに挑戦したベルカント(父サクラバクシンオー)=M.デムーロのコンビは、まるで直線1000mのお手本のようなレースを展開してみせた。いきなり楽々と54秒1。それも後半を「31秒9」でまとめたから、1000mでは独走ともいえる2馬身差圧勝に納得するしかない。

 もちろん、M.デムーロ騎手はハイレベルの直線のスプリントレースを、日本のベテラン騎手以上に経験している。だから、初の新潟1000mで非の打ちどころなしの、完ぺきに近いレースができたのだが、いまさらミルコ・デムーロを称えても意味はない。

 いきなり、楽々と「54秒1」で快勝したベルカントが、素晴らしかった。カルストンライトオが3歳夏の2001年、初めて直線1000mに挑戦した際は、当時のレコード53秒9で乗り切った5歳牝馬メジロダーリングの3着にとどまり、自身は「22秒0-32秒2」=54秒2だった記録がある。

 直線のスプリント戦に慣れているM.デムーロ騎手は、こういうレースは最初からなだめて進むのが当然と理解している。好スタートから、1度は伏兵に先頭を譲るくらいにセーブして進み、後半の再加速に成功、最後は「11秒5」である。カルストンライトオとはタイプも総合能力も異なり、ベルカントに道中2回も「9秒台」のハロンラップをたたき出す爆発スピードがあるかどうかは未知だが、きれいに「緩―急―緩―急―」のバランスを保ちながら圧勝した日本レコードのカルストンライトオの最後は、「12秒1」である。

 一方、もっとずっと楽な「緩―急―緩―」のペースだったとはいえ、ベルカントのそれは「11秒5」である。立ち直った4歳ベルカントは、まだまだ上昇の余地十分。

 もし来期の「韋駄天S」、「アイビスSD」に、同じようないい状態で出走することができるなら、現在の芝コースの作り方は2002年当時とは大きく異なるのでレコード更新は難しいとしても、54秒のカベ突破なら可能だろう。ベルカントには、カルストンライトオ(完成されたあとスプリンターズSも快勝)と同レベルのスプリント適性がある、と賞賛したい。

 ベルカントのように初の直線1000mをいきなり54秒台前半で乗り切るのは難しく、経験が重要であることを示したのは2着シンボリディスコ(父アドマイヤマックス)。5月の駿風Sを55秒0=「23秒1-31秒9」で2着。この記録では、アイビスSDでは足りないが、2度目の今回は行きっぷりが違い、前半400mを「22秒3」。もとより後半は駿風Sで示したようにしっかりしているから、今回も標準以上の「32秒1」でまとめることができた。合わせて「54秒4」。ベルカントを筆頭に、有力馬が飛ばすタイプではなかったから、楽に追走できたのも有利だった。

 父アドマイヤマックスは、1200mのG1高松宮記念の勝ち馬であり、さかのぼるファミリーの4代母は、メジロアサマの半姉にあたるスイートエイト(父ゲイタイム)という名門中の名門牝系。1戦ごとに1200m時計も、1000mのタイムも短縮している。まだ5歳夏。さらなる上昇も期待できる。

 アースソニック(父クロフネ)は、昨年の3着が「22秒3-32秒1」=54秒4。
6歳の今年は、「22秒6-31秒8」。やっぱり54秒4で3着。これで新潟の直線1000mは4戦して【0-0-4-0】となってしまった。再び自己最高タイ記録で乗り切りながら、ちょっと及ばずの3着は、ストレートに相手が一枚上だったということか。もうちょっとだけ時計がかかって欲しかった。

 セイコーライコウは(父クロフネ)は、昨年はそんなに待っていて届くのかと思えるほどスパートを我慢し、「22秒4-31秒9」=54秒3。今年も同じように後半スパートして、「22秒7-31秒8」=54秒5。走破タイムの差は0秒2だけ。届かなかったのは、前半の行きっぷりの悪さが響いたものだろう。

 これは、しかし、1000mは突き詰めれば時計の勝負という一面を否定できないから、あえて数字を並べただけのこと。たしかにほとんど衰えてはいなかったが、時間とともにどんどん単勝支持率が下がっていったように、全体のかもしだす雰囲気が、いかにも8歳の夏だった。馬券ファンの視線は、最後はシビアである。長距離路線ならベテランのスタミナ配分でカバーできるが、スプリント路線では小さな陰りが致命的だった。

 3歳サフィロス(父キンシャサノキセキ)、同じく3歳レンイングランド(父クロフネ)は、54秒台後半の善戦止まりで、6着と8着。でも、前述のようにカルストンライトオでさえ、現在よりもっと高速の芝だった当時、3歳時は54秒2で完敗だったのだから、3歳馬が初の直線1000mを54秒台で乗り切れば、合格だろう。来季は、前出のシンボリディスコになれるはずである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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